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2024/09/24

血液加工物による治療法について: 変形性関節症治療における多血小板血漿(PRP)の効果①

ポイント
・変形性関節症治療の評価方法
・血小板の生物学的特性
・PRP治療で期待される効果

変形性関節症は、関節軟骨や滑膜など、関節のすべての組織に影響を与える可能性のある関節疾患です1)。現在、変形性関節症に対する治療は、薬剤投与による非外科的治療が主流となっています。しかしながら、既存の薬剤治療は痛みなどの症状を緩和する対症療法であり、軟骨自体を修復する効果があるわけではなく、疾患の改善は困難です。
多血小板血漿(PRP)は、血小板を多く含む血液由来の血小板濃縮物で、生体由来の成長因子やサイトカインといった生理活性物質を豊富に含んでいます。これらの生理活性物質は、関節において軟骨の治癒とリモデリングを促進することにより、構造的・臨床的に疾患を改善できる可能性があることから、PRPは変形性関節症治療における新しい治療法の選択肢として注目されています。
研究者COLUMでは、2回に分けて変形性関節症治療におけるPRPの効果について紹介します。1回目は、血小板がどのような生理学的特性を持つのか、PRP治療に期待される効果をお話します。

血小板の生物学的特徴

PRPに含まれる、小さな円盤状の無核細胞片である血小板は、生体の創傷部位に到達すると、内因性酵素のトロンビンやコラーゲンの刺激を受けて活性化します。血小板が活性化されると、放出顆粒であるα顆粒に貯蔵されている凝固因子、血小板活性化因子、接着分子、細胞活性化分子、サイトカイン、インテグリン、炎症性分子および成長因子の放出が誘導されます。これらの因子と、内皮細胞、免疫細胞との相互作用により、免疫系を活性化させ、止血や組織の再生を行います2)

PRP治療で期待される効果

PRPの血小板由来の凝固因子、サイトカインや成長因子は、軟骨細胞のマトリックスを強化し、特定のサイトカインの炎症性応答を減少させる作用があることが報告されています3)。このことから変形性関節症においては、PRP治療により関節軟骨の増殖性を亢進し、機能性や痛みを改善することで、症状が緩和できると考えられています。

軟骨細胞の増殖促進

変形性関節症では、関節軟骨の代謝異常により、軟骨の薄層化が生じます。PRPは、軟骨細胞の増殖を促進する効果があるため、軟骨の変形を改善できる可能性があります。
変形性関節症を誘発したマウスでは、PRPを関節に投与すると、関節軟骨の分解が抑制されることが分かっています4)。さらに、変形性関節症患者から単離した軟骨細胞をPRP存在下で48時間培養したところ、軟骨細胞の増殖が亢進されたことが報告されています(図1)5)

図1. ヒト軟骨細胞の増殖に対するPRPの影響5)
A: 各培養条件下における軟骨細胞の写真, B: 各培養条件下における細胞の数, C:各培養条件化における細胞の増殖率
軟骨細胞を異なる濃度(5%, 10%, 20%)のPRP存在下で培養し、増殖率を比較したところ、PRPの容量依存的に細胞増殖が亢進された。

軟骨マトリックスの代謝改善

軟骨マトリックスの代謝は、Ⅱ型コラーゲンやプロテオグリカン、炎症性サイトカインなどの相互作用によって制御されています。これらの調節障害により代謝異常が起きると、マトリックスが劣化し、変形性関節症の発症につながります。PRPは、Ⅱ型コラーゲンやプロテオグリカンの合成を促進し、細胞外マトリックスの同化と異化のバランスを保つことで軟骨を保護する作用があります2)

炎症性因子の放出抑制

変形性関節症では、軟骨細胞の破壊やマトリックス分解に伴い発生した分解生成物が、滑膜に二次的な炎症を引き起こし、痛みを生じさせます。変形性関節症マウスの関節内へのPRP投与は、血液中炎症性サイトカインレベルの増加を抑制できることが報告されています4)

 

参考文献

1) Zhengchao Wang et al., Effects and action mechanisms of individual cytokines contained in PRP on osteoarthritis, J Orthop Surg Res, 2023.

2) Jang-Yin Zhang et al., Mechanisms and applications of the regenerative capacity of platelets-based therapy in knee osteoarthritis, Biomed Pharmacother, 2024.

3) Lisa M Billesberger et al., Procedural Treatments for Knee Osteoarthritis: A Review of Current Injectable Therapies, Pain Res Manag, 2020.

4) Haijun Zhao et al., Platelet-rich plasma inhibits Adriamycin-induced inflammation via blocking the NF-κB pathway in articular chondrocytes, Mol Med, 2021.

5) Mayssam Moussa et al., Platelet rich plasma (PRP) induces chondroprotection via increasing autophagy, anti-inflammatory markers, and decreasing apoptosis in human osteoarthritic cartilage, Exp Cell Res, 2017.

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