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2024/12/24

アルツハイマー型認知症の治療法について:認知症の初期症状と経過、メカニズム

ポイント
・認知症とは
・アルツハイマー型認知症の初期症状と経過
・アルツハイマー型認知症のメカニズム

認知症は、病気や事故、加齢などを要因として脳の神経細胞が障害を受けることにより発症する、認知機能の低下を伴う脳の機能障害です。認知症全体の約6割を占めるアルツハイマー型認知症(AD)は、記憶障害と見当識障害を主な症状とする加齢性疾患です1)。現在、人口の世界的な高齢化に伴い、世界のAD患者数は2050年までに1億3150万人、日本では500万人を超えると予想されており、患者数の増加が問題となっています2,3)。このことから、有効な治療法の開発が求められていますが、ADの原因は完全に解明されておらず、根本的な治療法はありません。
本シリーズでは、5回に分けて認知症の症状やメカニズム、既存の治療法からセルプロジャパン株式会社が取り組んでいる治療法開発についてまでをお話します。本記事では、ADの初期症状と経過、メカニズムについて紹介します。

認知症とは

認知症は、脳の細胞が病気や事故、加齢など何らかの原因によって障害を受け、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断など多数の高次脳機能の低下が引き起こされる疾患です4)。その種類は大きく分けて5つに分類され、AD、血管性認知症、レビー小体関連認知症、前頭側頭葉変性症、その他の原因などがあります (図1)5)。認知症の種類によって症状が異なるため、疾患に合った適切な治療を受ける必要があります。

図1. 原因疾患別認知症の割合5)

アルツハイマー型認知症の初期症状と経過

認知症全体の6割以上を占めるADは、加齢により発症リスクが高まる、進行性の記憶障害と見当識障害を特徴とした神経変性疾患です(図2)6)。加齢による認知機能の低下は、ヒトにおける生理的な現象であり、病的な変化ではありません。高齢期では、ときどき物事を忘れる、物を置いた場所を忘れるなど、短期的な記憶能力が低下しやすいものの、もの忘れをしているという自覚があり、症状が進行・悪化することはないと考えられています1,6)。一方でADは、記憶や認知機能に軽度の障害がみられる軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)と呼ばれる過程を経て、ADへと移行する進行性の症状を有しています。体験したこと自体を覚えていない、屋外の慣れ親しんだ場所や状況で混乱するなど、もの忘れをしているという自覚がないのが特徴です。重度では友人や家族など身近な人を認識することができなくなり、徐々にコミュニケーション能力が失われ、食事や身だしなみといった日常生活動作を自力でこなすこともできなくなります7,8)。また、認知機能の低下以外にも、不安や不快感、うつ、無関心、睡眠障害、摂食障害、幻覚をはじめとした精神症状や、それに伴う過敏性、攻撃性などの行動の変化といった周辺症状が現れることも特徴です9)。症状の進行速度や発現頻度は個人によって異なり、個々の性格や週間、暮らしぶりなども影響することが明らかになっています。

図2. ADの臨床経過モデル8)
アルツハイマー型認知症は、典型的な老化過程から予測される認知機能の低下より、より速い速度で認知機能が低下する

アルツハイマー型認知症のメカニズム

ADの発症メカニズムや原因は明らかになっていませんが、AD患者の脳にはアミロイドβ(Aβ)やタウと呼ばれるタンパク質が異常に蓄積しており、これらが疾患の進行に関与していると考えられています(図3) 1,10)。Aβは、脳内で恒常的に産出されている生理的ペプチドで、正常な脳では神経の保護やシナプス形成を促進する作用があります。AD患者の脳では、Aβの分解や排出の処理が上手く行っておらず、凝集、蓄積がみられます1)。Aβが脳に過剰に沈着すると、神経細胞に炎症が生じ、細胞死が誘導されることで脳の萎縮や認知機能の低下が引き起こされます。また、微小管結合タンパク質のタウは、正常な脳では軸索の微小管を安定化する作用がありますが、AD患者の脳では、過剰にリン酸化されており、細胞骨格タンパク質の異常な増加や、軸索形質輸送障害、ニューロン変性を誘引し、神経障害毒性を引き起こしています。さらに、タウの過剰なリン酸化はAβの蓄積によって亢進されることが分かっており、これらの相互毒性により疾患の進行が促進されていると考えられています11)

図3. 健常高齢者、MCI高齢者、AD高齢者におけるタウPET画像10)
脳におけるタウの蓄積は、健常高齢者の一部で側頭葉内側に見られるようになり(図左)、MCIでは側頭葉外側に及び(図中央)、ADでは大脳皮質へと拡大していく(図右)

セルプロジャパン株式会社の取り組み

セルプロジャパン株式会社は、国立大学法人京都大学 iPS細胞研究所と共同研究契約を締結し、神経疾患における脳内の機能改善を目的として、「ヒト幹細胞由来生理活性物質の特性を活かした新規治療法」の開発を目指すための基盤技術構築に取り組んでいます12)

 

参考文献

1) 福島順子., 総説:アルツハイマー型認知症の病態と治療, 北星学園大学社会福祉学部北星論集, 2018.

2) Alzheimer’s Disease International (ADI)., The Global impact of dementia: an analysis of prevalence, incidence, cost and trends, World alzheimer report 2015, 2015.

3) 二宮利治., 認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究, 認知症施策推進関係者会議(第2回) 資料, 2024.

4) 玉岡晃., 認知症診断の実際, Med Imag Tech, 2010.

5) 古和久朋., 認知症の分類と診断, Jpn J Rehabil Med, 2018.

6) 神崎恒一., 加齢に伴う認知機能の低下と認知症, 日本内科学会雑誌, 2018.

7) Luana Flávia da Silva, Talmelli1 Francisco Assis Carvalho Vale et al., Alzheimer’s disease: functional decline and stage of dementia, Acta Paulista de Enfermagem, 2013.

8) 下濱俊, アルツハイマー病の新たな診断基準, 日本老年医学会雑誌, 2013.

9) Rianne M. van der Linde, Tom Dening, Fiona E et al., Grouping of behavioural and psychological symptoms of dementia, International Journal of Geriatric Psychiatry, 2013.

10) 杉山 淳比古, 島田 斉., タウイメージングに期待される認知症診療における役割, RADIOISOTOPES, 2016.

11) Huiqin Zhang, Wei Wei et al., Interaction between Aβ and Tau in the Pathogenesis of Alzheimer’s Disease, International Journal of Biological Sciences, 2021.

12) セルプロジャパン株式会社., News release: 京都大学iPS細胞研究所とセルプロジャパン株式会社が 共同研究契約を締結 〜認知症をはじめとする神経疾患に対する新規治療法の開発を目指す〜, 2024.

セルプロジャパンとは

セルプロジャパン株式会社は再生医療を中心に
新しい医療の可能性を追求する企業です。
私たちの対象分野は再生医療、医薬品、化粧品など多岐にわたり、各分野における研究開発に日々取り組んでいます。

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