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2025/01/20

アルツハイマー型認知症の治療法について:認知症治療における既存治療の種類

ポイント
・アルツハイマー型認知症の診断基準
・アルツハイマー型認知症に対する既存の治療法の種類と課題

アルツハイマー型認知症(AD)は、患者自身に症状の自覚が無い場合もあることから、診断では本人の問診や認知機能検査だけでなく、家族の問診、画像診断やバイオマーカーなどの方法を利用して多面的な検査が行われます1)。ADの周辺症状の発現頻度や進行速度は個人によって異なり、早期の正確な診断がその後の適切な治療やケアの鍵になります2)。ADの根本的な原因は明らかになっておらず現在根治療法は無いため、治療では薬理学的、非薬理学的手法による対症療法が行われます。本記事では、ADの診断基準、既存の治療法の種類とその課題についてお話します。

アルツハイマー型認知症の診断基準

ADの診断では、初期症状である近時記憶障害などを検査するための認知機能検査や問診が行われます。また、認知症に伴う行動異常及び周辺症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:BPSD)として、攻撃性、不穏、焦燥、脱抑制、収集癖、不安、抑うつ、幻覚や妄想などが観察されることもあるため、これらの症状も診断の際に参考にされる場合があります3)。その後、画像診断により脳の状態をより詳細に検査します。AD患者の脳は、コンピューター断層撮影(CT:Computed Tomography)や磁気共鳴画像(MRI)による撮影画像では内側側頭葉の萎縮が認められ、単一光子放射断層撮影(SPECT)や放射性物質のFDGを使用した陽電子放出断層撮影(FDG-PET)などの機能画像では、両側側頭・頭頂葉と後部帯状回の血流低下や糖代謝障害が観察されます(図1,2)4,5)。また、脳内に蓄積しているアミロイドβ(Aβ)の検出が可能なPittsburgh compound-B-PET(PIB-PET)では、脳におけるAβの広範な蓄積が見られる場合もあります3)。ADの症状は複雑なため、これら複数の診断法を用いて多面的な検査を実施する必要があり、確定診断には熟練した臨床的判断や経験が必要になります6)

図1. AD患者の脳のMRI画像4)
正常な脳(左)とAD患者の脳(右)。AD患者では、海馬の萎縮がみられる

図2. 前頭葉に神経原線維変化病変が目立つAD患者の脳のMRIとSPECT画像5)
MRI画像では軽度の前頭部萎縮(左, 白矢印)、SPECT画像では前頭部で血流の低下が観察される(右, 赤矢印)

アルツハイマー型認知症に対する既存の治療法の種類と課題

ADの症状は多様であることから、個人の治療に対するニーズは広範であり、患者、家族、介護者を含めた幅広いケアが必要になります。本項では、ADに対する非薬理学的治療法、既存の治療薬から新しい治療法まで紹介します。

非薬理学的治療

非薬理学的治療には、認知ベースの治療、心理社会的治療、理学療法、感覚療法などがあります。これらの治療は、認知症の改善を目的としたものではなく、トレーニングや心理的療法により、個人が生活する上での障害を減らすことで、生活の質を向上させることを目的としています。いくつかの研究では有効性が示されている一方で、症状の改善は限定的であると考えられています7,8)

薬理学的治療

●アセチルコリンエステラーゼ阻害剤:AChEI
薬剤名:リバスチグミン、ガランタミン(軽度から中等度)、ドネペジル(軽度から重度)
AD患者の脳では、アセチルコリンと呼ばれる神経伝達物質の分解が進んでいます。アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、アセチルコリンの分解を抑制し、減少しているアセチルコリン濃度を高める薬剤です。AD症状の進行抑制により、QOLの改善、介護負担の軽減などの効果が期待できますが、半減期が短く、服薬スケジュール管理が難しいことが課題となっています9)

●N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗薬
薬剤名:メマンチン(中度から中等度)
AD患者の脳では、神経伝達物質のグルタミン酸によって刺激されるNMDA受容体が過剰に活性化されており、これにより神経細胞の障害やシグナル伝達阻害が引き起こされています。メマンチンは、NMDA受容体と結合して受容体の過剰な活性化を抑えることで、記憶や学習機能の障害を抑制する作用があります。しかしながら、1日2回服薬する必要があり、患者の自己負担額の増加や服薬ストレス等の課題があげられています6)

●抗体医薬品
薬剤名:アデュカネマブ、レカネマブ(軽度から中等度)
アデュカネマブやレカネマブは、2023年、2024年に日本で医薬品として承認された新しいAD治療薬です。AD患者の脳に特徴的にみられるAβは、凝集体として蓄積すると神経毒性作用を示します。これらの薬剤は、Aβに直接結合・除去することで症状の進行を抑制することができます10)。新しい治療薬として期待されている一方で、女性や遺伝的危険因子アポリポプロテインE(APOE4など)を持つ患者には効果が無いのではないかという議論があります11)

再生医療

●幹細胞治療
幹細胞は、様々な細胞を作り出す能力である分化能と、自分と同じ能力を持つ細胞に分裂する自己複製能を持つ細胞で、組織に由来する生体幹細胞、胚に由来する胚性幹細胞、人工的に作られた細胞である多能性幹細胞の3種類があります12)。AD治療においては、これらの幹細胞を直接脳の特定の領域に投与すると、投与した細胞が神経細胞へ分化、既存の神経細胞を活性化させるなどの作用により、認知機能を改善する効果があることが報告されています13)

●細胞培養上清液
幹細胞培養で得られる上清液には、細胞自身が産生・分泌した、様々な成長因子やサイトカイン、エクソソームといった生理活性物質が含まれています。これらの因子は、脳の神経細胞の新生や炎症抑制、Aβ沈着の阻害により、認知機能を改善する効果があることから、新しい治療法の選択肢として期待されています14)

セルプロジャパン株式会社の取り組み

セルプロジャパン株式会社は、国立大学法人京都大学iPS細胞研究所と共同研究契約を締結し、神経疾患における脳内の機能改善を目的として、「ヒト幹細胞由来生理活性物質の特性を活かした新規治療法」の開発を目指すための基盤技術構築に取り組んでいます15)

 

参考文献

1)古和 久朋., 認知症の分類と診断, Jpn J Rehabil Med, 2018.

2)池田 学., 認知症, 高次脳機能研究, 2009.

3)玉岡 晃., 認知症診断の実際, Med Imag Tech, 2010.

4)Philip Scheltens., Imaging in Alzheimer’s disease, Dialogues Clin Neurosci, 2009.

5)Benjamin Lam, Mario Masellis et al., Clinical, imaging, and pathological heterogeneity of the Alzheimer’s disease syndrome, Alzheimers Res Ther, 2013.

6)Jacob HG Grand et al., Clinical features and multidisciplinary approaches to dementia care, J Multidiscip Healthc, 2011.

7)長田 久雄, 石原 房子., 文献にみるエビデンスに基づく認知症の非薬物療法的アプローチ, 高次脳機能研究, 2012.

8)Liao-Yao Wang et al., Overview of Meta-Analyses of Five Non-pharmacological Interventions for Alzheimer’s Disease, J Multidiscip Healthc, 2020.

9)北村 伸., アセチルコリンエステラーゼ阻害薬, 日本生物学的精神医学会誌, 2011.

10)Mingchao Shi et al., Impact of Anti-amyloid-β Monoclonal Antibodies on the Pathology and Clinical Profile of Alzheimer’s Disease: A Focus on Aducanumab and Lecanemab, Front Aging Neurosci., 2022.

11)Markku Kurkinen, Lecanemab (Leqembi) is not the right drug for patients with Alzheimer’s disease, Adv Clin Exp Med, 2023.

12)再生医療PORTAL., 再生医療の基礎知識

13)Xin-Yu Liu et al., Stem cell therapy for Alzheimer’s disease, World J Stem Cells, 2020.

14)Leila Alidoust et al., Stem cell-conditioned medium is a promising treatment for Alzheimer’s disease, Behav Brain Res., 2023.

15)セルプロジャパン株式会社., News release: 京都大学iPS細胞研究所とセルプロジャパン株式会社が共同研究契約を締結〜認知症をはじめとする神経疾患に対する新規治療法の開発を目指す〜, 2024.

セルプロジャパンとは

セルプロジャパン株式会社は再生医療を中心に
新しい医療の可能性を追求する企業です。
私たちの対象分野は再生医療、医薬品、化粧品など多岐にわたり、各分野における研究開発に日々取り組んでいます。

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