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2024/11/25

血液加工物による治療法について:多血小板血漿(PRP)治療のアンメットメディカルニーズ領域

ポイント
・アンメッドメディカルニーズにおけるPRP治療の効果
・PRP治療開発に今後求められること

世界的な高齢化の進行と時代の変化に伴って、アンメットメディカルニーズに対応する治療法の開発が求められています。アンメットメディカルニーズとは、治療薬が全く存在しない、既存の医薬品だけでは治療効果が得られないといった、未だ特定の有効な治療法が無い疾患に対する医療のニーズのことを指します1)。日本においては、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病といった神経疾患、関節リウマチ、変形性関節症、糖尿病やがんなど約60の疾患がアンメットメディカルニーズとされています2)。これらの疾患の治療法開発は現状十分ではなく、多くの疾患で患者が治療に満足感を得られていないことから、新しい治療薬の開発が求められています(図1)。
再生医療技術のひとつである多血小板血漿(PRP)は、生体由来の成分により組織の修復と再生を促す作用が期待できるため、これら難治性疾患の有望な選択肢とされています。しかしながら、PRP治療に関連する臨床報告は数が少なく、効果の有益性は検討段階にあります。本記事では、アンメッドメディカルニーズにおけるPRP治療の対象疾患、PRP治療開発に今後求められることについてお話します。

図1. 2019年度におけるアンメットメディカルニーズ領域の60疾患の治療満足度2)
アンメットメディカルニーズ領域に含まれる60疾患のうち約10の疾患で、患者の約60%が治療に対する不満を抱えているという現状がある。

アンメッドメディカルニーズにおけるPRP治療の効果

PRPは、組織の修復過程(炎症、増殖、リモデリング)をサポートすることにより、創傷治癒を促す効果があります。このことから、アンメットメディカルニーズに関する疾患では、PRPは主に難治性の創傷や炎症に対する治療法として適用されています。

・関節性疾患: リウマチ性疾患
リウマチ性疾患は、筋骨格系だけでなく心臓などの臓器にも損傷を与える可能性のある炎症性の自己免疫疾患です。PRPに含まれる成長因子は、組織の炎症を抑える作用があることから、リウマチ患者の手首、肘および足首など痛みのある部位に投与すると、炎症を抑制し、関節機能を改善する効果が期待できます3)

・筋骨格系の障害
慢性アキレス腱症は、持続的な痛みにより身体能力の大幅な低下を引き起こします。PRPの局所投与は、腱の再生を促進し、治癒を促す効果があります。慢性アキレス腱症におけるPRP治療では、罹患部位にPRPを注射すると、疼痛が改善されることが報告されています(図2)4)

図2. PRP治療後の慢性アキレス腱症患者におけるVISA-Aスコアの変化4)
PRP治療を受けた慢性アキレス腱症患者で、治療後2, 6か月, 4-5年(Final)で症状の改善が観察された。

・脊椎の障害
脊椎疾患は、下肢の痛みやしびれなどの症状により、日常生活動作や生活の質に大きな影響が生じる病気です。現在、保存的治療やリハビリテーションを中心とした治療が行われていますが、十分な治療効果が得られない場合も多く、新しい治療法の開発が求められています。PRPは、軟骨の再生をはじめとして創傷した組織を修復する効果が期待できます。腰椎椎間板ヘルニア患者を対象としたPRP治療の臨床試験では、PRP注射を受けた患者でMRI所見、腰痛関連症状が改善され、再発率も低下することが報告されています5)

・非治癒性創傷
PRPの代表的な治療効果として、皮膚創傷の回復促進作用があります。PRPに含まれる成長因子には、線維芽細胞、上皮幹細胞、内皮幹細胞などの増殖を促進する能力があり、皮膚の再生を促します。糖尿病性足潰瘍と診断された 150 人の患者に、治療を目的としてPRPを局所適用したところ、組織形成により創傷が閉鎖したことが報告されています6)。さらに、エイズ患者における慢性潰瘍でも、PRPの適用後に血管新生と再上皮形成の増加が観察され、創傷治癒期間が他の従来の方法と比較して短縮されることが分かっています6)

PRP治療開発に今後求められること

PRP療法の市場評価総額は、2021年に3億7,078万米ドルに達し、2031年まで年平均成長率6%で拡大すると予想されています6)。市場の急拡大に伴い、需要も上昇している一方で、費用や調整法の構築、感染リスクといった解決が必要ないくつかの課題が残されています。

・低コスト化
PRP療法は、日本において2024年現在保険診療として認められておらず、治療を受ける場合は自由診療下での施術になります。自由診療の場合、費用は全額自己負担となるため、患者の治療費負担が重くなる可能性があります。このことから今後、自由診療下においてはPRPをより安全で安価に調整するキットの開発が必要になります。また、法律の整備などによりPRP治療が保険適用になれば、負担の削減が期待できます。

・調整技術の標準化
PRPの調整は、遠心分離と抽出のプロセスからなります。最終的に、製造されたPRP中に含まれる血小板の濃度は、全血の初期量、遠心分離操作の速度や強度によって変動します7)。現状PRPの統一された調製基準はなく、クリニックで独自のプロトコルが使用されており、治療効果にばらつきがあります。今後調整技術を標準化し、プロトコルのばらつきを減らすことで、より予測可能で効率的な治療が可能になると考えられます。

・感染リスクの低減
PRP治療は生体内への投与を必要とするため、調整時に無菌環境で血液分離操作を行う必要があります。この過程でPRPを不用意に抽出し、汚染してしまうと、人体に注射した際に感染症を引き起こす可能性があります。このことから、医療従事者や専門家が安全に調整や投与を実施する手技の開発や教育を行っていく必要があります。

 

参考文献

1) Eduardo A et al., Personalized plasma-based medicine to treat age-related diseases, Mater Sci Eng C Mater Biol Appl, 2017.

2) 公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団, 国内基盤技術調査報告書「60疾患に関する医療ニーズ調査(第6回), (第6回分析編)」, 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 創薬基盤推進研究事業, 2020.

3) Adam Jacobs et al., Current State of Platelet-rich Plasma in the Treatment of Rheumatic Disease: A Retrospective Review of the Literature, Bentham Open Access, 2023.

4) Giuseppe Filardo et al., Platelet-rich plasma injections for the treatment of refractory Achilles tendinopathy: results at 4 years, Blood Transfus, 2014.

5) Soya Kawabata et al., Advances in Platelet-Rich Plasma Treatment for Spinal Diseases: A Systematic Review, Int J Mol Sci, 2023.

6) Ranjan Verma et al., Platelet-rich plasma: a comparative and economical therapy for wound healing and tissue regeneration, Cell Tissue Bank, 2023.

7) Yiqiu Cao et al., A narrative review of the research progress and clinical application of platelet-rich plasma, Ann Palliat Med, 2021.

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