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2025/02/24

アルツハイマー型認知症の治療法について:認知症治療における上清液の期待効果と作用メカニズム

ポイント
・ヒト幹細胞培養上清液に含まれる成分
・PRP治療開発に今後求められること
ヒト幹細胞由来培養上清液(以下、上清液)は、細胞を培養した際に得られる上澄みを指します。上清液には、細胞から分泌された数千種類にも及ぶ成分が豊富に含まれており、細胞増殖活性や免疫調節作用など、多岐にわたる効果が期待できます1)
近年、アルツハイマー型認知症(AD)やパーキンソン病(PD)といった脳の神経疾患に対して、上清液を治療に利用することで、疾患改善が期待できるとして、その効果が注目されています。本記事では、上清液に含まれる成分から、AD治療に対して期待される効果および作用機序までをお話します。

ヒト幹細胞培養上清液に含まれる成分

組織は、多数の細胞の集合体で成り立っています。組織の機能を維持するために、細胞は細胞外小胞(Extracellular vesicles: EVs)を分泌し、細胞間で情報伝達を行っています。EVsには、エクソソームやサイトカイン、miRNAといった多様な生理活性物質が豊富に含まれており、損傷した組織や細胞の修復を促進する、炎症を抑えるなどの効果があります(図1)2)。研究室などで人工的に培養された細胞では、EVsは上清液中に存在しており、これらの因子を回収・精製したものが、疾患治療に利用されています。分泌されるEVsの種類や量は、由来となる細胞によって異なるため、治療の目的に合わせて、細胞を選択する必要があります。

図1. 間葉系幹細胞(MSC)から分泌される体表的な因子2)
細胞から分泌される成分の例。細胞は、脂質、タンパク質、miRNAなどを分泌している。

アルツハイマー型認知症に対する幹細胞培養上清液の効果

神経系疾患の治療に幹細胞培養上清液の利用が期待され始めた背景

上清液の歴史は古く、1950年頃から組織培養時の上清液に、細胞増殖作用があることが分かっていました1)。2003年にヒトの臨床試験において、グリア細胞や脂肪由来間葉系幹細胞などの上清液中に含まれる神経栄養因子である、グリア細胞株由来神経栄養因子(Glial Cell Line-derived Neurotrophic Factor: GDNF)をPD患者の脳の被殻内に投与すると、症状が改善することが証明されました3)
また、上清液には線維芽細胞成長因子-1(FGF-1)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、インスリン様成長因子-1(IGF-1)といったGDNF以外の神経細胞栄養因子も含まれています。このことから、上清液を神経系疾患の治療へ利用できるのではないかと考えた研究者らにより、実用化に向けた研究が始められました1,4)

AD治療に対する効果

ADの発症には様々な要因が関与していますが、神経細胞とシナプス機能の障害が、認知機能障害につながる重要な事象です。現在、ADに対する上清液の効果で分かっているものには以下があります。

①神経炎症抑制
脂肪由来幹細胞培養上清液は、IL-1βおよびTNF-αなどの炎症性サイトカインのレベルを低下させることにより、神経を炎症から保護する作用がある5)

②酸化ストレス抑制
乳歯由来幹細胞培養上清液は、酸化ストレスの原因となる3-ニトロチロシン(3-NT)と誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)を抑制する5)。さらに、神経幹細胞培養上清液は、活性酸素腫(ROS)産生の阻害を通じて、ミトコンドリアの損傷および細胞毒性を減少させる5)

③神経保護
臍帯、脂肪幹細胞など多くの幹細胞培養上清液で、抗アポトーシスタンパク質を増強させ、神経細胞の死を抑制する5)

④シナプス形成
乳歯幹細胞培養上清液は、シナプス形成に関連するBDNF、NGF、IGFなどの複数の神経栄養因子の遺伝子発現を増加させる5)

⑤神経新生
歯髄幹細胞培養上清液は、海馬などのCNS領域においてBDNF、GDNF、VEGFの神経栄養因子を増加させ、神経新生を亢進する5)

⑥Aβ蓄積抑制
脂肪やアストロサイトなどを由来とする培養上清液は、Aβ沈着を阻害し、神経細胞を保護する5,6)

⑦認知機能改善
乳歯や歯髄幹細胞などから得られる培養上清液は、ADモデル動物の空間学習や認識記憶を向上させ、記憶障害と学習障害を改善する5)

セルプロジャパン株式会社の取り組み

セルプロジャパン株式会社は、国立大学法人京都大学 iPS細胞研究所と共同研究契約を締結し、神経疾患における脳内の機能改善を目的として、「ヒト幹細胞由来生理活性物質の特性を活かした新規治療法」の開発を目指すための基盤技術構築に取り組んでいます7)

 

参考文献

1)佐俣文平., メーカーの取り組むべきヒト幹細胞培養上清液の製造規格について, 国際抗老化再生医療学会雑誌, 2023.

2)Hao Deng et al., Lipid, Protein, and MicroRNA Composition Within Mesenchymal Stem Cell-Derived Exosomes, Cellular Reprogramming, 2018.

3)Steven S Gill et al., Direct brain infusion of glial cell line-derived neurotrophic factor in Parkinson disease, Nature Medicine, 2003.

4)Vesna Bucan et al., Effect of Exosomes from Rat Adipose-Derived Mesenchymal Stem Cells on Neurite Outgrowth and Sciatic Nerve Regeneration After Crush Injury, Molecular Neurobiology, 2019.

5)Leila Alidoust et al., Stem cell-conditioned medium is a promising treatment for Alzheimer’s disease, Behavioural Brain Research, 2023.

6)Xinyi Ma et al., ADSCs-derived extracellular vesicles alleviate neuronal damage, promote neurogenesis and rescue memory loss in mice with Alzheimer’s disease, Journal of Controlled Release, 2020.

7)セルプロジャパン株式会社., News release: 京都大学iPS細胞研究所とセルプロジャパン株式会社が共同研究契約を締結〜認知症をはじめとする神経疾患に対する新規治療法の開発を目指す〜, 2024.

セルプロジャパンとは

セルプロジャパン株式会社は再生医療を中心に
新しい医療の可能性を追求する企業です。
私たちの対象分野は再生医療、医薬品、化粧品など多岐にわたり、各分野における研究開発に日々取り組んでいます。

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