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2025/07/07
アルツハイマー型認知症の治療法について: ヒト幹細胞培養上清液によるアルツハイマー型認知症治療の方法
・ヒト幹細胞培養上清液治療の費用
近年、アルツハイマー型認知症(AD)治療の新しい選択肢として、幹細胞から分泌される細胞外小胞(Extracellular vesicles: EV)を含むヒト幹細胞培養上清液の有効性が、ヒトや動物の研究で示されています。ヒト幹細胞培養上清液を使用したAD治療の研究では、認知機能や記憶機能の改善が観察されている一方で、治療方法や効果は未だ検討段階にあります。本記事では、ヒト幹細胞培養上清液治療を受ける際に想定される流れ、治療後の経過や患者ごとの効果の違いまでを、これまでの非臨床・臨床研究の報告をもとにお話しします。
ヒト幹細胞培養上清液によるAD治療の流れ
ヒト幹細胞培養上清液によるAD治療は、臨床試験において効果が検証されています。本項では、過去の報告をもとに、想定される治療方法について紹介します。
脳にヒト幹細胞培養上清液の成分を効率的に届ける手段として、鼻腔投与が有効であると言われています1)。Xinyi Xieらが行った軽度から中等度AD患者を対象にした試験では、健康成人の脂肪由来間葉系幹細胞培養上清液から抽出したEVを鼻腔内に週に2回、14週間投与しています。すべての期間で有害事象は観察されず、治療により認知機能が改善したことが示されています(図1, 2)2)。現在までに、重度の認知症患者を対象としたヒト臨床研究は報告が無く、疾患の進行具合による効果の違いは、今後検討する必要があります。

図1.ヒト脂肪由来間葉系幹細胞培養上清液の鼻腔内投与における安全性評価2)
ベースライン時および24回の介入時の各被験者の(A):血圧(収縮期血圧および拡張期血圧)、(B):心拍数(正常範囲は60~100拍/分(bpm))、(C):IgE値、(D, E):肝機能に関する検査指標:アラニントランスアミナーゼ(ALT)とアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、(F, G):腎機能の検査指標:血中尿素窒素(BUN)と血清クレアチニン(Scr)。 治療期間中、患者の血圧や心拍数、アレルギー反応(IgE値)、肝機能、腎機能は安定しており、正常値に収まっていた。
*E001~009は被験者番号を指す。

図2.ベースラインから2週目までのスコアの変化2)
(A-C):認知機能検査尺度:Alzheimer’s Disease Assessment Scale-Cognitive section(ADAS-cog)、Mini-Mental State Examination(MMSE)、Montreal Cognitive Assessment(MoCA-B)、(D):Neuropsychiatric Inventory Scale(NPI)、(E):老年期抑うつ尺度(GDS)、(F):日常動作の評価:アルツハイマー病共同研究日常生活動作尺度(ADCS-ADL)、日常生活動作尺度(ADL)、手段的日常生活動作尺度(IADL)。 低容量群、中容量群、高容量群で効果を比較したところ、中容量群でMoCA-Bのスコアが増加しており、認知機能の改善が認められた。
ヒト幹細胞培養上清液治療の費用
ヒト幹細胞培養上清液は医薬品としての承認例がなく、現在は保険診療の対象外です。そのため、具体的な費用は定められていません。今後、製造プロセスの技術開発が進むことにより、コストが削減され、より手頃な価格で治療を受けられるようになることが期待されています。
セルプロジャパン株式会社の取り組み
セルプロジャパン株式会社は、国立大学法人京都大学 iPS細胞研究所と共同研究契約を締結し、神経疾患における脳内の機能改善を目的として、「ヒト幹細胞由来生理活性物質の特性を活かした新規治療法」の開発を目指すための基盤技術構築に取り組んでいます3)。
参考文献
1) Xinyi Ma, Meng Huang et al., ADSCs-derived extracellular vesicles alleviate neuronal damage, promote neurogenesis and rescue memory loss in mice with Alzheimer’s disease, J Control Release, 2020.
2) Xinyi Xie, Qingxiang Song et al., Clinical safety and efficacy of allogenic human adipose mesenchymal stromal cells-derived exosomes in patients with mild to moderate Alzheimer’s disease: a phase I/II clinical trial, Gen Psychiatr, 2023.
3) セルプロジャパン株式会社., News release: 京都大学iPS細胞研究所とセルプロジャパン株式会社が共同研究契約を締結〜認知症をはじめとする神経疾患に対する新規治療法の開発を目指す〜, 2024.