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2023/11/28

細胞培養工程を含む最終製品の安全性について:フェノールレッド

ポイント
・再生医療等製品及び特定細胞加工物の安全性
・ヒト幹細胞由来培養上清液及びエクソソームの安全性
・フェノールレッド使用のリスク

第二回では、細胞培養培地の代表的な添加剤であるフェノールレッドについてお話します。一般的に使用されている細胞培養培地は、赤色を呈しているものが多くあります。この赤い色は、フェノールレッドというpH測定用の指示薬の色で、アルカリ性では赤紫色、中性のpH7付近では赤色、酸性では黄色に染まります。細胞を培養する際の至適pHは、pH6.8~7.2であると言われています。細胞培養では、細胞自身の増殖や代謝、異常により、培地のpHが変動します。わずかなpH変動であっても、細胞の生育状態や性質に大きな影響を与える可能性があるため、培地のpHは常に管理する必要があります。フェノールレッドは、pHによって色が変化することから、培養中の培地のpHが細胞の生育に適しているかを一目で判断できる便利な試薬です。しかしながら、フェノールレッドとの直接的な接触は、目、呼吸器および皮膚への刺激に繋がるため、使用時は注意が必要です。また、培地へのフェノールレッドの添加リスクは1980年代から報告されており、ヒト幹細胞培養を行う上でも懸念事項になる可能性があります。

 

フェノールレッドを使用するリスク

フェノールレッドは、非ステロイド性のエストロゲンと類似した構造を持っています(図.1)。1) エストロゲンは女性ホルモンとして知られており、ヒトの身体において様々な代謝内分泌を制御しています。このことから、フェノールレッドがヒトの身体に入ると、エストロゲン様の作用を示す可能性があります。現在では、フェノールレッドの生体に対する作用の詳細が明らかになっており、用いる動物や細胞種など実験によって配慮が必要であることが示されています。


図1. フェノールレッドと非ステロイド性エストロゲンの構造1)

 

細胞増殖速度の変化

培養細胞のエストロゲン応答活性は、フェノールレッドとエストロゲンで同等であると言われています。エストロゲンに応答性のあるヒト乳がん細胞株の培養において、フェノールレッド含有培地で培養すると、細胞の増殖が亢進することが報告されています(図.2)。2)このことから、フェノールレッド含有培地での培養により細胞の増殖速度がどのように変化するのか、その結果として最終製品にどのような影響があるのかを適切に把握する必要があります。


図2. フェノールレッド含有(Phr+)および非含有下(Phr-)におけるヒト乳がん細胞の増殖速度の変化2)
培養53時間後では、Phr-と比較してPhr+で細胞数の増加が亢進している。

 

ホルモン分泌への影響

脳下垂体では、エストロゲン刺激により性腺刺激ホルモンが分泌されていることから、フェノールレッドの脳下垂体への作用が懸念されます。ラットの脳下垂体細胞をフェノールレッド含有培地で24時間培養し、成長ホルモン分泌ホルモン(GnRH)で刺激すると、黄体形成ホルモン(LH)の分泌が抑制されます。また、フェノールレッド含有培地4時間培養下では、GnRH刺激によりLH分泌が亢進します。さらに、エストロゲンの主要成分であるエストラジオール含有培地で同様の検討を行うと、フェノールレッドとほぼ同様の効果が観察されます。3)したがって、フェノールレッドを使用する際は、最終製品に含まれた場合の影響を十分に考慮して、適切な製造体制を構築する必要があります。


図3. エストラジオール(図左)またはフェノールレッド(図右)含有培地培養下における脳下垂体細胞からの性腺刺激ホルモン分泌の変化
□:上のグラフ 脳下垂体細胞をエストラジオールまたはフェノールレッドで24時間培養し、GnRHで刺激するとLHの分泌が抑制される。△:下のグラフ 脳下垂体細胞をエストラジオールまたはフェノールレッドで4時間培養し、GnRHで刺激するとLHの分泌が亢進する。

 

セルプロ社製品の特徴

セルプロジャパン社では最終製品にフェノールレッドが漏れ込む可能性を排除するために、フェノールレッド不含培地で上清液やエクソソームを抽出しています。その他、使用する培地や製造方法にも細心の注意を払っています。

【引用】
1) Y Berthois et al., Phenol red in tissue culture media is a weak estrogen: implications concerning the study of estrogen-responsive cells in culture, Proc Natl Acad Sci U S A, 1986.
2) Józefa Wesierska-Gadek et al., Phenol red in the culture medium strongly affects the susceptibility of human MCF-7 cells to roscovitine, Cell Mol Biol Lett, 2007.
3) O ortmann et al., Weak estrogenic activity of phenol red in the pituitary gonadotroph: Re-evaluation of estrogen and antiestrogen effects, J Steroid Biochem, 1990.

セルプロジャパンとは

セルプロジャパン株式会社は再生医療を中心に
新しい医療の可能性を追求する企業です。
私たちの対象分野は再生医療、医薬品、化粧品など多岐にわたり、各分野における研究開発に日々取り組んでいます。

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