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2024/01/22
細胞培養工程を含む最終製品の安全性について:組み換えタンパク質 血小板由来成長因子 PDGF
目次
・ヒト幹細胞由来培養上清液及びエクソソームの安全性
・組み換えタンパク質 PDGF使用のリスク
第四回以降では、細胞培養培地に添加される組み換えタンパク質について数回に分けてお話しします。培養に使用される一般的な培地には、細胞の成長を亢進することを目的として生理活性物質が添加されます。生理活性物質とは、ホルモンや神経伝達物質などを含むタンパク質の総称です。添加される生理活性物質のなかには、組み換えタンパク質という技術を利用して精製されているものがあります。組み換えタンパク質とは、生物から目的の遺伝子を取り出し、取り出した遺伝子情報を動物細胞や大腸菌、微生物に導入して培養することで、目的の遺伝子を組み入れたタンパク質のみを大量に生産する方法です。この時利用する遺伝子は、天然のタンパク質と同じアミノ酸配列を持つものだけでなく、溶解性や収量などの特性を改善するために、配列を改変した遺伝子を用いることもできます。しかしながら、組み換えタンパク質の使用や過剰な添加は、再生医療製品を製造する上でリスクになることがあります。
組み換えタンパク質: PDGFを使用するリスク
生理活性物質は、細胞活性を調節する低分子量のシグナルタンパク質でこれまでに130種類以上が報告されています。現在、20種類以上の組み換えタンパク製剤がアメリカ食品医薬品局(FDA)において承認されており、ヒトの治療に使用されています(図1)。1)
図1. 組み換えタンパク製剤として利用されている生理活性物質の例1)
細胞培養培地に添加される代表的な生理活性物質に、血小板由来成長因子であるPDGFがあります。PDGFは、線維芽細胞や平滑筋細胞など間葉系を起源とする様々な細胞の遊走や増殖調節を行っています。現在ヒトの疾患治療において、FDA承認済みの組み換えPDGF製剤が使用されています。しかしながら、疾患に対して治療効果がある一方で、投与時に副作用が発生する例が報告されています。したがって、再生医療製品を製造する際に、細胞培養上清液に組み換えPDGFが含まれる場合は、ヒトの身体に入った場合のリスクを勘案する必要があります。
皮膚疾患の発生
ヒト組み換えPDGF製剤は、糖尿病患者の非治癒性神経障害性足潰瘍の治療に使用されています。創傷の回復を促す一方で、皮膚における感染症の発生率の上昇や浮腫、潰瘍の発生が報告されています。2)
図2. 非治癒性神経障害性足潰瘍患者においてPDGF製剤(Becaplermin)治療により発生した副作用例2)
がん発生率の上昇
腫瘍細胞において、PDGFは自己分泌増殖刺激および血管新生に関与していることが報告されています。3)したがって組み換えPDGFがヒトの体内に入ると、がんの発生率を上昇させる可能性があります。
図3. PDGFが関与している腫瘍関連経路の例3)
セルプロ社製品の特徴
セルプロジャパン社では、最終製品に組み換えタンパク質が漏れ込む可能性を排除するために、独自製法による洗浄工程を設けています。その他、使用する培地や製造方法にも細心の注意を払っています。
【引用】
1) Brian A. Baldo, Side Effects of Cytokines Approved for Therapy, Drug Safety, 2014.
2) T J Wieman et al., Efficacy and safety of a topical gel formulation of recombinant human platelet-derived growth factor-BB (becaplermin) in patients with chronic neuropathic diabetic ulcers. A phase III randomized placebo-controlled double-blind study, Diabetes Care, 1998.
3) Kristian Pietras et al., PDGF receptors as cancer drug targets, Cancer Cell, 2003.