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2024/04/22
血液加工物による治療法について:多血小板血漿(PRP)療法
・PRP治療の目的
再生医療とは、病気やケガで機能を失った組織を、細胞や血液といった生体由来の人工材料で治療する技術です。近年、再生医療分野の治療法のひとつである、多血小板血漿(Platelet-Rich Plasma:以下、PRP)の利用が拡大しています。本COLUMNでは、PRPを用いた治療法、効果から製造方法まで数回に分けてシリーズで紹介します。第1回では、PRP療法の目的についてお話します。
PRP療法とは
ヒトの血液には、血漿、血小板、白血球、赤血球といった複数の成分が含まれています。これらは比重が異なることから、遠心操作によって各成分に分離することができます(図1) 1)。PRPは、「自己末梢血を遠心分離して得られた複数の成分から、血小板を多く含む血漿分画」を回収し、凝縮したものです。一般的に、血液中の正常な血小板数は150,000-350,000/μlですが、PRP中にはこの数倍量の血小板が存在しています2)。この中には、血小板由来の成長因子や増殖因子といった、組織の再生に有効な生理活性物質も豊富に含まれています。PRP療法は、組織の創傷部位にPRPを投与、塗布し、生体由来の生理活性物質により、組織の再生や修復を促す治療法です。自己由来の成分であることから、理論的に免疫応答やウイルス感染のリスクが低く、様々な疾患治療への応用が期待されています。
PRP療法の目的
血小板の主な機能は、急性失血を防ぎ、創傷後の組織の修復を行うことです。ヒトの組織が創傷を受けると、毛細血管壁から体液が漏出します。この体液中にはコラーゲンが含まれており、コラーゲンが血小板に触れると血小板が活性化され、成長因子やサイトカインといった生理活性物質を分泌します3)。PRP療法は、このメカニズムを利用した治療法で、創傷部位の治癒を促進する効果が期待できます。また、PRPには抗炎症性サイトカインも存在し、抗炎症・鎮痛作用があることが証明されていることから、細胞や組織移植時の抗炎症剤としての利用も広がっています。
【引用】
- Rubina Alves and Ramon Grimalt., A Review of Platelet-Rich Plasma: History, Biology, Mechanism of Action, and Classification, Skin Appendage Disord, 2018.
- R E Marx., Platelet-Rich Plasma (PRP): What Is PRP and What Is Not PRP ?, Implant Dent, 2001.
- Robinder S Dhillon et al., Platelet-rich plasma therapy – future or trend ?, Arthritis Res Ther, 2012.