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2024/08/26
血液加工物による治療法について: 変形性関節症治療における多血小板血漿(PRP)治療の流れ
目次
・変形性関節症治療におけるPRP治療の流れ
・PRP療法による変形性関節症の治療効果
変形性関節症は、関節軟骨の摩耗や骨棘形成などの異常な骨増殖を特徴とした、関節の機能障害です。治療は病気の進行度に合わせて、主に軽度、中等度では薬剤治療、重度では関節形成術による外科的治療が行われます。
変形性関節症の新しい治療の選択肢として、多血小板血漿(PRP)療法の利用が拡大しています。PRP療法は、これまでの変形性関節症の治療法と比較して、簡便で低侵襲性、合併症が少なく安価で、患者側の身体的、心理的な負担が少ない治療法です。血液を遠心操作により分離し、血小板を濃縮して製造されるPRPは、ヒト血液由来の成長因子を豊富に含んでおり、組織の修復や炎症抑制効果が期待できます1)。しかしながら、PRPは作成方法や施術に関する基準が無く、日本においては保険診療外のため、施術回数や価格など治療の詳細は病院ごとの基準に従って決定されています。本記事では、変形性関節症に対するPRP治療適用までの流れ、費用や効果について紹介します。
変形性関節症治療の評価方法
変形性関節症は多様な症状を呈するため、臨床における病気の進行度評価にはいくつかの評価法を組み合わせることが推奨されています2)。変形性関節症の進行度は、医療従事者または患者自身が回答する質問形式のアンケートの記入、MRIやX線、超音波による画像診断方法など複数の臨床評価法を使用して総合的に判断されます。
変形性関節症における評価法の種類2)
師主導型評価: Knee Society Score, 日本整形外科学会膝疾患治療成績判定基準 (JOA スコア),Lysholm knee scoring scaleなど
患者立脚型評価: Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index (WOMAC)や Japanese Knee Osteoarthritis Measure(JKOM)など
多面的評価: Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score(KOOS)など
画像診断評価法: Kellgren-Lawrence(KL)分類など
変形性関節症治療におけるPRP治療の流れ
治療の当日は病院で採血を行い、採取した血液からPRPを作成し、注射器を用いて患部に直接注入する施術が行われます。施術後は、15分程度安静が必要ですが、その日のうちに退院が可能です。その後24-48時間程度自宅等で安静にし、注射された関節の荷重負荷を制限することが推奨されます。投与回数に標準的な頻度はありませんが、臨床研究では1~4週間の間隔で1~数回投与が行われます3,4,5)。治療にかかる費用は、PRP調製時に使用するキットやプロトコルによって様々ですが、2021年の報告では注射1回で最大350,000円とされています4)。
PRP療法による変形性関節症の治療効果
PRP治療の経過には個人差がありますが、治療後約1か月で痛みの改善がみられ、効果は平均9か月、長ければ12か月ほど持続すると言われています6,7,8)。初回の治療終了後は、症状により必要に応じて定期的な投与を行うことが推奨されます4)。
PRP療法は、変形性関節症の軽度から中等度の患者で、症状の改善が観察されやすい傾向にあります8)。変形性膝関節症を例にとると、X線による疾患程度の診断評価法であるKL分類において、症状が軽度(KL2)であるほどPRP治療による改善効果が観察される人が多く、重度(KL4:重度)では効果を感じる人が少なくなるとされています(図1)4)。また重度患者のうち、変形性膝関節症の進行に伴い悪化する大腿骨脛骨角*1(FTA:femoro-tibial angle)の値が、190度以上の患者では治療の有効性が低く、重度であっても180度以下であれば改善がみられる可能性があります (図2)4)。患者全体としてみると、PRP療法による治療を受けた変形性膝関節症患者の約60%で症状の改善が観察されています。
*1: 大腿骨脛骨角(FTA:femoro-tibial angle): 大腿骨と脛骨の位置関係を前から見た角度で評価する方法。180度以上でO脚・内反、176度は正常(生理学的外反)、176度以下でX脚・外反であると評価される。
参考文献
1) Jessica Amelinda Mintarjo et al., Current Non-surgical Management of Knee Osteoarthritis, Cureus, 2023.
2) 変形性膝関節症診療ガイドライン2023策定組織., 変形性膝関節症診療ガイドライン2023(案), 2023.
3) Seyed Ahmad Raeissadat et al., The comparison effects of intra-articular injection of Platelet Rich Plasma (PRP), Plasma Rich in Growth Factor (PRGF), Hyaluronic Acid (HA), and ozone in knee osteoarthritis; a one year randomized clinical trial, BMC Musculoskelet Disord, 2021.
4) Yoshitomo Saita et al., Predictors of Effectiveness of Platelet-Rich Plasma Therapy for Knee Osteoarthritis: A Retrospective Cohort Study, J clin Med, 2021.
5) Lucía Gato-Calvo et al., Platelet-rich plasma in osteoarthritis treatment: review of current evidence, Ther Adv Chronic Dis, 2019.
6) Mao Hong et al., Efficacy and Safety of Intra-Articular Platelet-Rich Plasma in Osteoarthritis Knee: A Systematic Review and Meta-Analysis, Biomed Res Int, 2021.
7) Po-Hua Huang et al., Short-term clinical results of intra-articular PRP injections for early osteoarthritis of the knee, Int J Surg, 2017.
8) Michael-Alexander Malahias et al., Platelet-Rich Plasma versus Corticosteroid Intra-Articular Injections for the Treatment of Trapeziometacarpal Arthritis: A Prospective Randomized Controlled Clinical Trial, Cartilage, 2018.