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2024/07/24

血液加工物(多血小板血漿:PRP)による治療法について: 変形性関節症の治療の種類

ポイント
・変形性関節症とは
・変形性関節症の治療法の種類
・変形性関節症の評価法
・変形性関節症に対するPRP療法

日本は、総人口1億2,550万人のうち65歳以上人口の割合が28.9%と、老年人口が3割にも達しようとする高齢化社会です(2021年, 総務省「人口推計」)1)。高齢化率の上昇に伴い、患者数の増加が問題となっている加齢性疾患に、変形性関節症があります。変形性関節症を含む関節症の国内有病者数は、2021年には2077万人と約30年前と比較して45倍に急増しており、今後も患者数の増加が予想されています2)
変形性関節症は、関節軟骨の進行性の変性病変を主体とした、骨の変形性疾患です。最も一般的な症状は関節痛で、主にしゃがむ、立ち上がる、物をつかむなどの日常生活の荷重動作時に痛みが生じます。発症や症状進行の原因には、加齢、性別、過剰な負荷などが影響することが分かっています。しかしながら、疾患の詳しい分子基盤は明らかになっておらず、外科的手術以外の治療法は現在対症療法のみとなっています。変形性関節症に対する治療は、運動療法による減量と、消炎鎮痛薬やヒアルロン酸製剤の投与といった薬物療法が標準的に使用されています。一方でこれらの治療法は、コストや通院頻度、手術といった患者側の負担の重さが課題として残されており、より安価で身体的・心理的に負担の少ない治療法の開発が求められています。
これまでの治療法に代わる第三の選択肢として、生体由来の生理活性物質を利用した再生医療による治療が注目されています。本記事では、変形性関節症治療の種類と治療法として近年利用が拡大している多血小板血漿(PRP)療法について紹介します。

変形性関節症とは

変形性関節症は、軟骨の変性、骨変形、骨膜炎や骨棘形成を特徴として、日常生活動作に支障をきたす関節の機能障害です。主な要因として加齢が挙げられ、軟骨細胞の異化作用が増加、同化作用が減少することにより、関節代謝の恒常性が壊れることで発症すると考えられています。すべての関節で発症する可能性があり、有病者の罹患部位は膝関節が最も多く、ついで股関節、手関節です3)

変形性関節症の治療法の種類

変形性関節症に対するすべての治療法は、主に痛みを中心とした臨床症状の改善を目的としています。治療法には、重症度に応じて非薬理学的、薬理学的、外科的の選択肢があり、侵襲性が低く、安価な治療法からはじまり、より侵襲的で高価な治療に進みます。日本では、変形性関節症に対する治療法の選択の目安として、独自の罹患部位ごとのガイドラインが設定されています。それらのガイドラインは、米国や英国の医療専門家らにより策定されたOsteo-arthritis Research Society International (OARSI)ガイドラインを基に作られており、症状の重症度別に段階的な治療法の適用が推奨されています(図1)3,4)

 

図1. OARSIにより推奨されている変形性関節症治療における段階的ケアアプローチ3)

非薬理学的療法

軽度の変形性関節症の治療に用いられる治療法です。運動プログラムによる筋力強化および減量と、関節可動域の運動性向上による症状の改善を目的としています。痛みのある部位にサポーターを取り付けるなど、物理的に固定することで関節の負担を減らす方法もあります。

薬理学的療法

・経口摂取薬剤
アセトアミノフェン: 痛みを軽減する目的で服用します。副作用の発生頻度が少なく、安全で効果的、安価なため、軽度の変形性関節症の第一選択療法です3)

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs): 中等度から重度の変形性関節症患者を対象とする治療薬です。アセトアミノフェンで症状をコントロールできない場合に使用されます。痛みの軽減効果はアセトアミノフェンよりも優れていますが、薬価が高く、消化管出血、腎機能障害、血圧上昇などの副作用が発生することがあります3)

オピオイド: アセトアミノフェン、NSAIDsで効果が見られない、または副作用のためにそれらに耐えられない場合にのみ使用されます。痛みの軽減効果がありますが、依存性が高く、慢性便秘を引き起こす可能性があります3)

・関節内投与薬剤
コルチコステロイド: 炎症抑制成分による除痛効果が期待できます。効果は短期的(8週間未満)で、長期間の使用により軟骨損傷が進行する危険性があることから、繰り返しの投与は推奨されていません。また、膝関節への効果は確認されているものの、肩や手関節では有益な効果が観察されづらい可能性があると言われています2)

ヒアルロン酸: 粘性補充効果があり、広く治療薬として使用されています。関節の痛みと機能への改善効果が最大4ヶ月程度期待できます。最大の欠点はコストであり、コルチコステロイドと比較して約50-100倍の費用がかかることがあります3)

外科的療法

薬理学的療法を適用したにも関わらず、痛みや障害が続くなど、重度の変形性関節症患者に利用される治療法です。代表的な外科的介入に関節全置換術があり、ほとんどの人工関節が、15-20年良好に機能することが報告されています。高い効果が期待できる一方で、手術を必要とすることから、患者の肉体的、心理的負担が課題となっています3)

細胞治療

ヒトの骨髄や脂肪組織を採取し、間葉系幹細胞(MSC)を作成・培養後、注射器などを使用して直接患部に細胞を投与する治療法です。MSCは免疫調節、炎症抑制作用を有し、骨や軟骨などの筋骨格系に分化する能力も持っていることから、痛みの緩和、病変の修復効果が期待できます。課題として、コストの高さや培養に技術を要すること、他家由来の場合はアレルギー反応が起きる可能性があることなどがあります5)

変形性関節症の評価法

変形性関節症の重症度評価において、広く用いられている診断法にKellgren-Lawrence (KL)分類があります。KL分類は、X線画像より骨棘形成と関節裂隙の狭小化などから、変形性関節症の重症度を0~4の5段階で評価する方法です(図2)3,6)。多くの疫学調査では、グレード0-2を無症状または軽度、3を中等度、4を重度の変形性関節症と定義した有病調査が行われています。KLグレードが高く、年齢が高いほど外科的治療を提案される患者が多くなる傾向にあり、変形性肩関節症ではKLグレード3および4の患者のうち約40%で肩関節全置換術が推奨されるという報告があります7)

図2. (1)関節腔の狭窄、(2)骨棘の形成を示す膝関節のX線写真3)

図2. (1)関節腔の狭窄、(2)骨棘の形成を示す膝関節のX線写真3)

変形性関節症に対するPRP療法

PRPは、患者由来の血液を遠心分離して得られる、高濃度の血小板と関連する成長因子、その他生理活性物質を含む自家混合物です。細胞の増殖、血管新生、炎症抑制効果があり、損傷した関節構造の代謝機能の改善により、軟骨の再生反応を誘導できることが期待されています8)。過去の報告では、ヒアルロン酸やステロイド剤と比較して、膝関節の痛みと機能スコアの改善効果が高く、変形性膝関節症治療に適していることが示唆されています9)。また、患者から血液を採取したその日のうちに関節に投与可能で、効果が9-12ヶ月間期待できることから、通院頻度が少なくて済むだけでなく、自家由来のためアレルギー反応が観察されづらいことも特徴です10)

 

参考文献

1) 内閣府., 令和4年版高齢社会白書(全体版) 第1章高齢化の状況(第1節1), https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/html/zenbun/s1_1_1.html.

2) 政府統計., 令和2年版 患者調査, 傷病分類編(傷病別年次推移表), https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/10syoubyo/dl/r02syobyo.pdf.

3) Keith Sinusas., Osteoarthritis: Diagnosis and Treatment, American Family Physician, Vol.85 Number 1, 2012.

4) 川口浩., 変形性関節症治療の国内外のガイドライン, 日関病誌, 2016.

5) Cody C Wyles et al., Mesenchymal stem cell therapy for osteoarthritis: current perspectives, Stem Cells Cloning, 2015.

6) 変形性膝関節症診療ガイドライン2023策定組織., 変形性膝関節症診療ガイドライン2023(案), 2023.

7) Adam Schumaier et al., Evaluating Glenohumeral Osteoarthritis: The Relative Impact of Patient Age, Activity Level, Symptoms, and Kellgren-Lawrence Grade on Treatment, Arch Bone Jt Surg, 2019.

8) Brendan O’Connell et al., The use of PRP injections in the management of knee osteoarthritis, Cell Tissue Res, 2019.

9) Yoshitomo Saita et al., Predictors of Effectiveness of Platelet-Rich Plasma Therapy for Knee Osteoarthritis: A Retrospective Cohort Study, J Clin Med, 2021.

10) Longxiang Shen et al., The temporal effect of platelet-rich plasma on pain and physical function in the treatment of knee osteoarthritis: systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials, J Orthop Surg Res, 2017.

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