1回目では、多血小板血漿(PRP)に含まれる血小板の特性、変形性関節症治療で期待される効果について紹介しました。PRPは、多くの成長因子やサイトカインといった血小板由来の成分を含んでいます。変形性関節症治療においては、PRPに含まれる各成分がそれぞれ特徴的な作用を示し、相乗的に症状を改善する効果があります。
本記事では、変形性関節症治療において、PRPのどの成分がどのような作用を持つのか、その作用機序までをお話します。

PRPに含まれる有効成分

PRPには、血小板由来成長因子(PDGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、結合組織成長因子(CTGF)、インスリン様成長因子(IGF)、肝細胞成長因子(HGF)、ケラチノサイト成長因子(KGF)、アンジオポエチン-1(ANG-1)、血小板因子4(PF4)、間質細胞由来因子(SDF)、腫瘍壊死因子(TNF)といった成長因子やサイトカインが含まれています^1,2)。本項では、代表的な因子と変形性関節症における作用を紹介します(図1)¹⁾。

PDGF: PDGF-AA, -AB, -BB, -CC, -DDの5種類があり、細胞の有糸分裂、走化性および血管新生を促進することで創傷を治療する効果がある。PDGF-BBは関節の軟骨修復を促進、軟骨肥大や骨棘形成を抑制し、炎症を抑える作用がある³⁾。

TGF-β: 前骨芽細胞の走化性、有糸分裂性を促進し、Ⅰ型コラーゲンやフィブロネクチンの生合成を刺激することで、骨形成を促す⁴⁾。

VEGF: 骨由来間葉系幹細胞の骨形成分化を誘導し、新しい骨の形成を促す⁵⁾。

EGF: 軟骨細胞の成長と増殖を促進する¹⁾。

FGF: FGF-1と-2の2種類があり、関節軟骨においてアグリカナーゼ活性を阻害することで、内因性の保護剤として機能する⁶⁾。

IGF: IGF-1と-2の2種類があり、コラーゲンとプロテオグリカンの生合成を刺激する作用がある。軟骨細胞、滑膜細胞、骨芽細胞、間葉系幹細胞の成長と恒常性を調節する⁵⁾。

HGF: 関節軟骨における血管新生に関与している⁷⁾。

ANG-1: 血管新生を調節している¹⁾。

図1. 変形性関節症における有効成分の作用例¹⁾

変形性関節症におけるPRP含有成分の作用機序

PRPに含まれる成長因子やサイトカインは、それぞれ特異的な経路を介して、変形性関節症の改善に有益な効果を示します。すべての因子の作用や、その経路が明らかになっているわけではありませんが、一部の因子ではメカニズムが既に解明されています。ここでは、増殖因子であるPDGF-BBを例として、その作用経路を紹介します。

PDGF-BBは、変形性関節症の関節内において、アポトーシス調節因子のBaxとカスパーゼ3の遺伝子発現を抑制し、P38の遺伝子発現を低下させ、ERKのリン酸化を亢進することで軟骨細胞のアポトーシスを抑制します⁵⁾。また、軟骨細胞の代謝制御に関わるJAK2/STAT、PI3K/AKTなどのシグナル伝達因子を調節することにより、変形性関節症における骨棘形成を改善し、軟骨変性を緩和する作用も持つことが報告されています（図２） ⁵⁾。さらに、IL-6、IL-8、TNF-α、iNOSやCOX-2などの炎症誘発性因子の発現を抑制できることも分かっています。

このようにPRPに含まれる成長因子は、単独で特定の効果を示すわけではなく、様々な経路に作用し、変形性関節症の改善に寄与しています。因子によっては、相互作用により効果が変化することも示唆されており、実際にはより複雑な機構で作用している可能性もあります。

図2. 変形性関節症におけるPRPの作用機序と期待される効果⁵⁾

参考文献

1) Zhengchao Wang et al., Effects and action mechanisms of individual cytokines contained in PRP on osteoarthritis, J Orthop Surg Res, 2023.

2) Eduardo Knop et al., Platelet-rich plasma for osteoarthritis treatment, Rev Bras Reumatol, 2016.

3) Pengfei Zhu et al., Recombinant platelet‐derived growth factor‐BB alleviates osteoarthritis in a rat model by decreasing chondrocyte apoptosis in vitro and in vivo, J Cell Mol Med, 2021.

4) Ning Zhang et al., Research Progress in the Mechanism of Effect of PRP in Bone Deficiency Healing, Scientific World Journal, 2013.

5) Jiang-Yin Zhang et al., Mechanisms and applications of the regenerative capacity of platelets-based therapy in knee osteoarthritis, Biomed Pharmacother, 2024.

6) Vilim Molnar et al., Mesenchymal Stem Cell Mechanisms of Action and Clinical Effects in Osteoarthritis: A Narrative Review, Genes (Basel), 2022.

7) Elisa Assirelli et al., Effect of two different preparations of platelet-rich plasma on synoviocytes, Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc, 2015.