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当社代表取締役社長佐俣文平が所属する京都大学iPS細胞研究所の研究グループにて論文を発表「脳卒中や外傷性脳損傷による脳神経障害に対する、細胞移植治療の効果を向上させる技術」
髙橋 淳 教授、佐俣 文平 研究員、大学院生の山上 敬太郎さん(CiRA臨床応用研究部門)らの研究グループは、脳卒中や外傷性脳損傷を要因とした脳の神経障害に対する、細胞移植治療の有効性を高める技術についての論文を発表しました。本研究成果は 2024年9⽉28⽇に、国際学術誌『Stem Cells Translational Medicine』に掲載されました。
〈研究の概要〉
外傷性脳損傷や脳卒中などにより大脳の運動野が損傷を受けると、長期間の運動麻痺が起きるなど、重大な運動機能障害が引き起こされる場合があります。これらの治療には薬物療法や手術、リハビリテーションが行われますが、中枢神経系(CNS)の再生能力の低さから効果には限界があり、根治療法の開発が求められています。ヒトiPS細胞由来の脳オルガノイドを用いた細胞移植療法は、障害を受けた神経回路を修復し、運動機能の回復を促進することから、新しい治療法として注目されています。しかしながら、患者への細胞移植後の急性細胞死による治療成績の低さが課題として残されています。
研究グループは、成長因子として知られるN結合型糖たんぱく質のプログラニュリン(PGRN)でヒトiPS細胞由来脳オルガノイドを前処理すると、マウスの脳に移植した際に細胞の生着と神経突起伸長の両方を改善することを明らかにしました。
〈研究結果〉
過去の報告において、外傷性脳損傷1週間後の脳組織は、損傷直後と比較して細胞移植後の細胞の生着や神経突起伸長の成績が良いことが分かっていました。そこで、外傷性脳損傷の1週間後の脳組織は、損傷直後と比較して細胞移植に適した環境を持っているという仮説を立て、神経損傷治療に有効性を示す可能性のある候補物質の選定を行いました。トランスクリプトーム解析注1)により、脳損傷直後と1週間後の2つの時間状態間の脳組織におけるRNA注2)発現を比較し、候補物質を選択しました。候補物質が、脳の損傷したニューロンにどのような影響を与えるかを検討するために、脳オルガノイド由来のニューロンを用いて、酸化ストレス付加条件における細胞毒性試験を実施しました。検討より、成長因子であるPGRNのヒト組み換え体(rhPGRN)注3)の投与が、Akt 注4) リン酸化によるアポトーシス注5)を減少させ、ニューロンの生存率を強化する作用があることが分かりました。さらに、rhPGRNの細胞移植治療の効果を検証するために、rhPGRNで処理したヒトiPS細胞由来脳オルガノイド(hiPSC-CO)をマウスの脳に移植し、3か月後に脳の組織学的評価を行いました。その結果、処理をしていない群と比較してrhPGRN処理群ではhiPSC-COの生着効率が大幅に向上し、マウス脳の皮質脊髄路注6)に沿って神経突起伸長が促進されていることが確認されました。
〈本研究結果の応用展開〉
これらの結果より、rhPGRNが、細胞移植治療時のiPS細胞由来ニューロンの生着と神経突起伸長を強化するプライミング剤として作用する可能性があることが示唆されました。今後は、投与経路や腫瘍形成の可能性などを検討し、詳細に効果を検証することで、より安全で効果のある細胞移植治療法の開発を行っていきます。
論文名と著者
論文名:
Progranulin enhances the engraftment of transplanted human iPS cell-derived cerebral neurons,
DOI: https://doi.org/10.1093/stcltm/szae066
ジャーナル名:
Stem Cells Transl Med
著者:
Keitaro Yamagami, Bumpei Samata, Daisuke Doi, Ryosuke Tsuchimochi, Tetsuhiro Kikuchi, Naoya Amimoto, Megumi Ikeda, Koji Yoshimoto, Jun Takahashi.
用語説明
注1)トランスクリプトーム解析: 細胞や組織に蓄積するRNAの発現を網羅的に解析する手法
注2)RNA: 遺伝情報の伝達やタンパク質の合成を行う因子
注3) rhPGRNのヒト組み換え体: 遺伝子学的手法により人工的に作成されたヒトPGRN
注4)Akt: 細胞の生存、増殖、成長などを制御するシグナル伝達物質
注5)アポトーシス: 個体の正常性を保つために引き起こされる、生体で管理・調節されている細胞死
注6)皮質脊髄路: 大脳皮質から脊髄を下降する随意運動を制御する経路